ラゲッジラック的活用
2007年12月7日
ピパルカックの季節
クリスマスの楽しみは“香り”
とうとうまた、今年もこの時期がやってきました!-北フィンランドでは初雪でクロスカントリースキーのすべり具合をテストし、フィンランド全国ではピパルカックを焼いて、クリスマスの準備にかかります。ワクワクする季節です!
私はクリスマスの楽しみは“香り”だと思うのです。そしてフィンランド人にとって、最高の香りはこのピパルカックの香りだと思います。特にグローブとシナモンの香りはたまりません。たとえキッチンに去年粉末にしたスパイスが残っていたとしても、やっぱり私は今年も新しいスパイスを買いなおします。新鮮なスパイスにはそれなりに強くてはっきりとした味があるからです。
我が家の子供たち(息子のヘンリと娘のメリ)もピパルカックを焼くのが大好きです。どっちがボウルに材料を入れるかということでさえ喧嘩のもとになります。兄のヘンリが黒蜜の分量を秤で測りボウルに入れるなら、妹のメリは砂糖を入れる係です。 作りかけの生地は何度も味見をします。「お母さん、何でこれってこんなに美味しいんだろうね!」
こちら、フィンランドでは生地を(内緒で)味見する習慣があるのです。もし、生地の味見を制限しようものなら、「私はスプーン4回分しか食べてないのに、ヘンリは7回食べたよ!」と、大変な騒ぎです。
私が初めてピパルカックを作った日のことを今でもとてもよく覚えています。まだ腰くらいの背丈しかない頃、それはお母さんの作ったものよりも厚ぼったくて、粉っぽくて、なんだか崩れた形だったのですが、そんな事は全然気になりませんでした。何しろ自分で焼いたピパルカックですからね!
この頃の私は、他大勢のフィンランドのおばあちゃん達がするのと同じように、昔ながらの方法でピパルカックを食べたものです。それは、クッキーをちょっとコーヒーで浸して、やわらかくして食べるというものです。最近の食べ方は、やはり近頃の大人たちが食べる方法・・・つまり、癖の強いチーズをのせて食べます。
ピパルカックのいいところ・・・?
ピパルカックのいいところは他にもあって、実はちょっとしたごまかしになるのです。私は、他の多くのフィンランド人の主婦と同じように、やはり毎日長い時間仕事をしています。クリスマスには、手の込んだ伝統料理をつくるのが習慣ですが、私にはその時間もエネルギーも残っていません。そんなわけで、もちろん出来合いを買ってくることになるわけです。そんな中、ピパルカックを焼く事によって、“正しいクリスマスの香り”が家中に充満。来客の際にはこの手作りピパルカックを上手く盛付けて出せば、「おっ!ここではいろいろクリスマスの準備をしているな!」と、カンチガイしてくれるというわけです。 クッキー型ですが、昔はよく花型や星型、ハートマーク等が使われました。最近はムーミン・キャラクターの型や新しいイッタラのアルヴァ・アアルトのサヴォイ・ベースの形をとったクッキー型などが人気です。私達家族はアメリカ合衆国のテキサスに住んでいた事があるので、我が家のピパルカックのいくつかはテキサス州の形をしています。
昔、クリスマス前の数週間は、フィンランド人の主婦にとって大変な時期でした。クリスマス前に家の中は隅々まで大掃除をしなければならないし、タンスや引出しの整理もクリスマス前にしなければならない。料理もしなければなりません。その上家族全員と親戚それぞれ、そして友人にもプレゼントを用意しなければなりません・・・それもできれば手作りが最高です。
クリスマスはフィンランドで最も大きなお祭りですし、間違いなく準備も最も大変なお祭りです。幸いこの伝統は最近は落ち着き始めています。クリスマスの当初の意味は、クリスマス休暇の間、ゆっくりとクリスマスの静寂を楽しむ事、そして教会に行ったり家族と一緒に時間を過ごす事だった訳ですから。
フィンランドで活動する“マルッタ協会”は、女性が伝統的な習慣や料理等を忘れ去ってしまわないように奨励する団体です。この団体が最近出したクリスマスの手引きにこんな文章がありました。「もしあなた方が、クリスマスをタンスの中で過ごすのでしたら、タンスの掃除はクリスマス前にしなさい。もしそうでないなら、タンスの掃除をする必要はありません。」 この手引きに私もしたがうつもりです。タンスの埃にクリスマスの静寂を楽しんでもらいます。
Text & Recipe : Hanna Jamsa (ハンナ・ヤムサ)
ヘルシンキを拠点とした現地でのガイドツアーや様々なサービスを日本人旅行者に提供する会社、My Suomi(マイスオミ)代表取締役。実はフィンランド屈指のアンティークコレクターでもある。フィンランド・ヘルシンキ在住。
フィンランドやスウェーデンでの伝統的なお茶の時間というと、ピパルカックなしには考えられません。ピパルカックはクリスマスの食べ物ではありますが、一年中食べられています。お茶に招待したお客様にはコーヒーと一緒にクッキーやケーキが用意されます。(食事をお客様にお出しするケースはあまりありません)
フィンランドやスウェーデン、デンマークにおけるピパルカックのレシピは、ほとんどアートの域に達しています。いくつもの地域に、地域独自のレシピがありますが、フィンランドで最も有名なレシピは“パライネン家のピパルカック”というもので、これはリュディァ・エクロース婦人が1920年に考案したものです。それぞれの主婦が、“どのレシピが最高か”ということを上品に話題にするのが、ピパルカックの食べ方の一部ともいえます。大抵の場合、女性は自分の母親やおばあさんのレシピにこだわります。
ピパルカックは何百年もの北欧の文化や歴史を語るのには、なくてはならないものです。最も古いレシピはデンマークの王室から見つかったもので、1490年代に書かれたものです。スパイスは薬でもあると信じられていたことから、中世にはピパルカックは健康に良いと考えられていました。
ピパルカックには、いろんな言語で異なる名前がついていますが、その名前からどんなスパイスが入っているかがわかります。フィンランドのPiparkakkuとスウェ-デンのPepparkakaはペパーケーキを意味しています。中世にはピパルカックに黒コショウを入れたからです。イギリスのジンジャーブレッドの名は生姜から来ていますが、ピパルカックにもやはり今でも粉末の生姜を使います。